【問題の本質とは?】看護師の日雇い労働を考える#江洲地みなみ
・看護師の日雇い派遣容認を考える
この二月、ついに医療従事者への新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、感染対策に向かって先に一歩進んでいる段階であるが、まだまだ現状として感染者数の減少は鈍化しており臨床で重症患者用のベッドの逼迫率は非常に高い。
さらに未だ清掃業者や介護士によるヘルプが受けられないため看護師にかかる負担は大きいままで、現場から去っていく看護師も多く、そんな現状から今はとにかく看護師のニーズが高まっている。
看護師が足りないのは臨床だけでない。
厚生労働省は四月から介護施設や障害者施設へ看護師を日雇いで派遣できるようにするため政令を改正し、容認する動きをみせている。
そうつまり、病院の看護師だけでなく、介護施設や障害者施設の看護師も同様に負担が大きいのである。
日雇い容認までの経緯としてこうだ。今まで労働者派遣法により労働契約が三十日以内の日雇い派遣を原則禁止していた。それが慢性的なマンパワー不足の中で、いかに看護師を確保していくかが課題となり、このような動きになったのである。
そもそも、例え臨床であろうが、介護施設、障害者施設であろうが、どの現場の看護師不足はコロナウイルスが日本に上陸するよりもはるかずっと昔からだ。
いつも看護師はマンパワー不足の中で身を粉にして働いていた。ぎりぎりの状態で労働していたのである。
なぜなら看護とはやろうと思えばいくらでもやれることがあるからである。患者を思えばいくらでも仕事が見つかる。だけど患者は看護師一人に対して一人ではない。基本的に看護師の人数は患者七名に対して看護師が一人なのである。
それだけでも大変なことである事は想像に容易いが、この対比はあくまでも基本であって、マンパワー不足の病棟は平気で看護師一人に対して十人なんて当たり前なのだ。看護師が忙しいのはそういうことの積み重ねで今日まで来ているからである。
そこに新型コロナウイルスによる感染者増加で、重症患者用にベッドが足りず、医療崩壊とくるものだから、臨床で働き看護師にはなんて声をかけてあげたらいいのかわからない。心底つらいだろうと思う。
やりがいや使命感だけで仕事はできない。
看護師が臨床から姿を消したって誰も責められないのである。むしろ今まで頑張られたことに頭が上がらない気分だ。
そんな状態であるから厚生労働省も動かざるを得なくなった。
臨床ももちろん、介護施設や障害者施設でも施設によって人数はまちまちであるけれど医師と看護師が必要だ。介護施設などではその施設の利用者の看護ができる看護師が少ないため、一人でも減れば他の看護師にかかる負担も多くなる。きっと障害者施設も同じだろうと思われる。
よってそこに看護師が日雇いで派遣されるのは一見するとよい対策のように見えるが、しかし、本当にそれはよい対策なのか首を傾げてしまう。
いったい看護師の日雇い労働とはどんなものなのか。僭越ながら想像してみた。
施設の看護は、臨床の看護とは違い、介護施設の利用者は慢性的な病状であるから、臨床と比べ急変は少なく、臨床で働いたことのある看護師ならある程度は対応できるかもしれない。
だが、それはあくまで見かけだけである。
実際に日雇いで介護施設にいって、出来ることは機能的看護のみ。それはつまり採血や食事介助、排泄処理に入浴介助などであるが、初対面で何の情報も知らない利用者にいきなり食事介助をしてくれと言われても戸惑う看護師は多いのではないだろうか。
なぜなら利用者一人ひとり症状が違えば、性格も違う。食事介助一つにしても、どのようにポジショニングするか、左右どちらからスプーンを向けるか、それは一回対面したことのある者でないとわからない。
また、一つの業務にどのくらいをかけていいのかもわからないのではないかと思う。三十分座れる利用者と十分しかもたない利用者もいるのだから、初対面の看護師でそこを見極めていくのは相当な技術を要し、かなり厳しいのではないかと推測する。
つまり食事介助一つを見ても、日雇いの現状を想像から察するに、中身を知らずに上が日雇いで看護師を派遣できるようにしたからと言われても、困るのは現場に入った看護師たちではないかと思うのだ。
それよりはもっと根本的な所である、看護師の過酷な労働状況を見て、直していった方が、結局は看護師の確保につながるように私は思うのだ。
しかしながら、そういった現場の中には猫の手も借りたいほどマンパワー不足に陥って、施設の運営すらぎりぎりな所もあるだろうから、迂闊に日雇い看護師を否定する気にもなれない。いないよりは居てくれる方がよい場合もあるだろうし、そこに雇う側と雇われる側の需要と供給が見合っているなら正解なのかもしれないと思うこともある。
私ひとりがどう叫んでもきっと厚生労働省は日雇い看護師を容認するだろう。命を救うため日々奮闘している看護師たちは常に精神的にも肉体的にも疲労を抱えている。やはり思うのは、どうしたら看護師が余裕を持って働けるのか、そこを一度考えてほしいということだけである。
人材育成コンサルタント
江洲地みなみ
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